1.申請者らは遺伝子組換え菌の培養のための新しいバイオリアクターの開発など、効率的な培養システムの開発のための研究を行なってきたが、菌自身が生成する増殖阻害物質の蓄積を抑制することが遺伝子組換え菌の培養で最も重要である事を明らかにした。たとえば、遺伝子組換え大腸菌の培養では菌自身が蓄積した酢酸、遺伝子組換え酵母の場合にはエタノールの蓄積、遺伝子組換え枯草菌の場合には乳酸あるいはプロピオン酸などの有機酸を蓄積する。そこで、グルコース濃度の制御によりエタノールあるいは有機酸の生成を抑え、遺伝子組換え菌を効率的に培養する方法を開発した。 2.組換え枯草菌は培養中グルコースなどの栄養源欠乏あるいは培養環境が悪くなったとき、胞子を形成する。しかし、栄養源が充分量存在する場合は、増殖に阻害的代謝産物、特にプロピオン酸などの有機酸を蓄積するため高濃度で枯草菌を培養することは難しい。そこで1で開発したグルコース濃度のオンライン制御装置によりグルコース濃度を適切なレベルに制御することによって増殖に阻害的な有機酸の生成を抑え、組換え枯草菌を効率的に培養し、非常に高濃度の菌体と高い遺伝子産物の発現が可能となった。 これらの結果は培養環境を最適な状態に調節することで微生物の細胞内の代謝を制御できることを示しており、他の測定項目も組み合わせることで工業的に有用な他の生物の培養系にも応用可能になることから工業的に極めて優れた培養技術である。
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