石炭灰は、適切な処理法が少ないため、各国で社会問題になっている産業廃棄物の一つである。世界的には4億トン/年もの灰が発生している。わが国には約45基ほどの大型火力発電所があり、ここから排出される石炭灰の量は概算で年間400万トンほどにものぼっている。現在、石炭灰はセメント原料などに利用されているが、半分以上は固体廃棄物として埋め立て地に投棄処分するしか処理方法がない。ここでは、こうした深刻な問題を抱えている石炭灰を、ゼオライトに転換することで、農業用資材として有効利用する方法について述べる。石炭灰は大部分、石炭に含まれていた無機質成分が燃焼の後に酸化物などとして残ったものから成っている。この灰の主な成分は、ケイ酸およびアルミナである。これらの成分は石炭の燃焼時に熔融し、灰の中では急冷され非晶質となって存在する。石炭灰は、結局、不純物を含んでいるが、非晶質ケイ酸アルミニウムである。アルカリ処理によるゼオライトなど結晶性ケイ酸アルミニウムへの転換を試みた。石炭灰20gを500ml容の三角フラスコに取り、3.5M NaOHの水溶液を160ml加えスラリーとした。このフラスコに還流冷却管を取り付け、ホットプレート上でスラリーを約95℃にて加熱処理した。処理物を、X線回折法や赤外吸収スペクトル法などで分析したところ、ゼオライトが生じていた。生成したゼオライトは、フィリップサイト、ホージャサイト、ゼオライトA、水和ソーダライトなどであった。フィリップサイトが、最も頻繁に生じた。ゼオライト化の機構は、石炭灰の粒子が完全に溶解した後に晶出する生成反応ではなく、粒子表面からケイ素やアルミニウム成分が溶出した後直ちに粒子表面に生成する溶液反応、か、表面での固相反応であろうと考えられる。陽イオン交換容量(CEC)を測定したところ、未処理試料では、3から20meq/100gの範囲であったのに対し、処理物では小さいもので150meq/100g、大きいものでは400meq/100g近くにも達した。ここで得られたCEC値は、市販されている天然産ゼオライト資材のその値が130〜150meq/100g前後であることを考慮すると、同等あるい約3倍も大きい。このことより、上述のようなアルカリ処理法でゼオライト転換した石炭灰は、比較的高性能のゼオライト資材になり得ると考えられる。石炭灰廃棄物、廃アルカリ、廃熱など一緒に廃出している工場等では、廃物だけを集めてゼオライトを合成できるという大きなメリットが期待できる。ゼオライト転換した石炭灰を「人工ゼオライト」と名付けた。農業分野において、人工ゼオライトは以下の高いCECに着目して、砂質土壌の改良に利用し、芝生育に及ぼす効果を検討した。生育調査結果より、人工ゼオライトの添加処理は、芝の草丈および生産量を増大させることがわかった。活性汚泥やバークなどを有機質原料にして、有機無機複合土壌改良剤を調製し、この改良剤により土のイオン保持能や吸着能など理化学的特性を改善できることがわかった。使用頻度の高い農薬であるダイアジノンとEPNについて吸着を試みたところ、人工ゼオライトは、これらの農薬を吸着除去することがわかった。脱臭試験より、重量で30〜50%用いると、家畜排泄物の臭気をほぼ完全に除去できることがわかった。
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