湿潤状態のパルプシートの電気的性質を解析することにより、古紙パルプに含まれている添加薬品の付着状態を評価する方法の開発を目的に、本年度も乾燥紙力増強剤、カチオン性ポリアクリロニトリル(PAM)に焦点をしぼり、検討を進めた。初年度の研究においてPAM添加量の増加に伴い、解繊シートの電気伝導度は必ずしも一義的に増大するのではなく、添加量が1.0〜1.5%を越えると減少することを見いだした。この現象は、PAM付着量の増大に伴って、その付着状態が変化するためであると考えられる。そこでまず、乾燥シートPAM付着量の簡便な定量法の検討を行った。その結果、全反射装置(ATR)を装着したFT-IRにより得られる差スペクトルがPAM付着量の相対値を与えること、さらにATRにおける入射角を変更することにより繊維中へのPAMの浸透の程度に関する情報も同時に得られることが判明した。次いで、パルプ叩解の程度、PAM添加の条件(PHメーター使用)および急速老化処理の条件などを変えた一連の試料を作製し、パルプ繊維の性質を評価する一方、湿潤パルプシートの電気的性質(導電率計使用)に及ぼすPAM存在の影響についての検討に移った。その結果、(1)新しく添加したPAMの付着量と引張り強さの間には相関があるが、両者の関係は叩解の程度によって異なること、(2)PAM付着量の変化に伴う湿潤パルプシート電気電導度の変化は当初推定していたよりかなり小さいが、PAMの付着状態についての貴重な情報を与えること、などが判明したが、電気的性質から得られるPAMの付着状態に関する情報が何を意味するのかについては不明の点が多く、目下鋭意検討中である。
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