湿潤状態のパルプの電気的性質を測定することによって、古紙パルプ中に残留している添加薬品の量と残留状態を評価する方法を開発するにあたり、乾燥シート中におけるそれらも併せ検討しておく必要がある。本年度はポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM)を用い、フーリエ変換全反射赤外分光法(FT-IR-ATR)によるPAM定量を中心に検討を進め、さらに研究の取りまとめを行った。結果の要約を下記に示す。 1.ATRスペクトルによるPAMの簡便な定量法を確立し得た。すなわち、PAM添加シートと無添加シートの差スペクトルにおけるアミド基由来の吸収ピーク(1670CM^<-1>)、およびATRスペクトルにおけるセルロース由来の吸収ピーク(1350CM^<-1>)を利用する方法であり、叩解の程度に拘らず、チッソ分析結果と極めてよい相関を与えた。 2.FT-IR-ATR法では試料表面への赤外線の浸透深さを変えての測定が可能である。叩解の程度を変えた一連のパルプ繊維を用いて検討した結果、叩解の進んだ繊維においてもPAMは繊維表面に偏在しており、繊維壁へのもぐり込みが認められないことが判明した。また、この方法は紙加工の研究分野で極めて有用な手法を提供するものと考えられる。 3.パルプ繊維に付着しているPAMはリサイクル処理に従って脱離するが、その割合は本研究の条件では毎回10%程度であった。また、リサイクル処理に伴うシートの引張強さの低下程度は、PAM無添加シートに比べて、添加シートで大きくなることも判明した。 4.添加剤添加による湿潤シート電気伝導度の変化の程度は添加剤のカチオン当量に依存し、カチオン当量の増大に伴って、変化率が大きくなる傾向が認められた。この現象は今後の研究の方向を示唆するものと考えている。
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