IncIαグループを代表するColIb-P9プラスミドの複製領域は、複製開始装置システム(SS)と複製制御システム(RS)から構成されている。SSには複製起点(ori)とそれに作用する複製開始タンパク質RepZをコードするrepZ遺伝子が、RSにはrepZ遺伝子の発現を正と負にそれぞれ調節するrepY、inc遺伝子が含まれている。一方、IncFIIグループを代表するR100プラスミドのSSにはrepA1とoriが、RSにはrepA1発現を調節する3種の遺伝子repA2、repA6、incが明らかにされている。ColIb-P9とR100複製領域の塩基配列には類似性はないが、repZとrepA1、repYとrepA6、及びinc遺伝子の機能は互いに類似する。ホモロジー検索の結果、IncFIIグループに分類されているP307プラスミドのSSとRSはColIb-P9のSSとR100のRSと、一方、IncZグループに属するpMU2200プラスミドのSSとRSはそれぞれColIb-P9、R100のそれらと高い類似性を示すことを見いだした。これらの事実は、プラスミド複製システムを構成しているSSとRSが互いに独立に構築され、進化すること、そして、SSとRSの組合せや局部的な突然変異によって、多様な複製システムが形成されることを示している。このことをさらに確かめるため、ColIb-P9のSSとR100のRSを試験管内で繋ぎ合わせたキメラレプリコンを作製し、それがP307と同じように複製することを明らかにした。次いで、それぞれ起源の異なるSSとRSの組換えを可能にしている機構を、ColIB-P9のRS領域を組織的にR100のRSに置き換え、それが複製の御能に与える影響を検討した。その結果、ColIb-P9及びR100の複製に必要なmRNAの特異な高次構造がSSとRS領域の組換え位置を規定していることを明らかにすることができた。RNA構造が組換えを規定する例はおそらく本研究が最初であり、プラスミド複製システムの多様化を理解するうえで興味深い。
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