本研究は内湾域や沿岸域での炭素・窒素循環における堆積物ー底層水境界層の重要性に注目し、その物質循環における役割を定量的に把握することを目的としている。本年度はモデル海域として相模湾に面した小網代湾の水深約10mの定点を選び、堆積物表層から水表層の光合成層までの、懸濁物質の特性や生物組成及び生物量の推定、溶存栄養塩の鉛直分布等の季節変化の解析を行った。その結果海底直上約10-20cmまでに、その上の層とは栄養塩等の溶存物質の濃度が明らかに異なり且つ懸濁粒子の多い層が、春から秋にかけて検出された。又各種のセジメントトラップによる沈降粒子の解析では、堆積物に直接設置したトラップのほうが、水中に設置したトラップより捕集速度が高いこと、又シリンダー状のトラップに比較して、平面状のトラップに捕集され沈降物の性状が異なることが明らかになった。これらの結果は、浅海域の底層付近では水平方向での懸濁物の移動が、鉛直方向での移動に比べて卓越していることを示唆している。又水平方向での移動の場合、比較的比重の小さい有機物に富んだ分画が、より異動しやすいことも明らかになった。しかし現場の堆積物を使った再懸濁実験では、現場で観測される通常の流速範囲での堆積物最表層の再懸濁はあまり大きくないことが示唆された。これは堆積物最表層に発達した、おそらく生物活動による3次元的マトリックスによるものであり、このようなはっきりした最表層の構造と、水平方向での再懸濁物質の活発な移動という現象は現在のところ矛盾している。この点に関しては今後最表層の構造と生物活動との関係を明らかにしていくことで解析を進めたい。又大型ベントスの機能にかんしても、顕微鏡とビデオカメラを組み合わせて、代謝活性を定量化する手法を開発し、現在デーテの解析中である。
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