本研究は海底の堆積物と底層との境界層におけるデトリタス食物連鎖とそこでの炭素・窒素の動態について解析を行った。モデル海域として神奈川県・三崎付近の水深10mの内湾を選び、海底境界層付近における微生物群集の季節変化、環境因子の解析、底生成物の現存量とその代謝活性等について1992年度に現地調査を行った。本年度は得られた試料の分析および補足調査を8-9月に行なった。本研究では海底最表層の供給源である沈降粒子についても、海底設置型の時系列式セヂメントトラップを開発して測定を行った。この一連の解析で得られた成果は以下の通りである。 (1)堆積物最表層において細菌群集および従属栄養鞭毛虫類は単位体積当たり最大値を示したが、堆積物の深度に従っての減少は従属栄養鞭毛虫類の方が大きかった。又水中と堆積物最表層中での細菌群集と従属栄養鞭毛虫類の数を比較すると、水中では約1000:1に対して堆積物最表層では約100:1と従属栄養鞭毛虫類の割合が増加していた。このことは堆積物最表層が微細な有機デトリタス等、細菌群集以外にも従属栄養鞭毛虫類の餌料となるものが多いことを反映していると考えられる。 (2)沈降粒子の内、海底近傍でトラップされるものは堆積物最表層と比較的類似した有機物組成を示し、明らかに中層での有機物に富んだ沈降粒子とは異なっていた。又海底設置型のトラップ実験からは、沈降とそこからの剥離の二つの現象が同時に起こっていることが推定され、海底境界層での物質輸送を考える時水平方向での輸送が重要であることが分かった。 (3)堆積物中の有機炭素の鉛直分布は季節的に有為な変動を示しこれには表層での植物プランクトンの生産・沈降が大きく寄与している。更に表層5cmまでの有機炭素量の増加は底層への供給とほぼ1カ月以内で同調しており、底生生物による堆積物の物理的撹乱が考えられる。この海域には春先多くの底性生物の現存量・活性がありこの考えと矛盾しない。
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