本研究の目的は、黒潮系の暖水塊が定期的に進入する内湾の一次生産機構を明らかにすることにある。このような開放的内湾では植物プランクトンの現存量は黒潮の流入を起点とする外洋との相互作用を通して急激に減少し、その直後、短期間で回復する。水温上昇期にこれが繰り返し起こる。しかし、なぜ現存量の急激な増加回復が起こるのかは解っていない。そこで1)湾内への黒潮の進入、2)湾内海水の移動、3)黒潮と内湾海水の混合、4)潮流が海底泥に与える化学的影響、5)水質変化、6)植物プランクトンの現存量分布、7)植物プランクトンの増殖と水質との関係を明らかにし、潮流、水質、植物クトンの増殖は一連の連鎖関係を形成していると言う立場に立って、植物プランクトン現存量の振動機構を解明しようとした。研究実績の概要は以下の通りである。 1.調査対象となっている湾に進入する黒潮系の暖水塊は表層で27℃水深10mに水温躍層があり、23℃に低下する。このことから水深10m以浅の海水が密度流となって湾内に進入すると考えられた。 2.湾表層に進入した急潮によって湾内水の2/3が底層から湾外に押し出された。急潮後、湾外の低温海水が湾の底層から進入し、再び内湾水の5/6が湾外に押し出された。このように急潮後の湾外と湾内の海水交換が大きいことが判明した。 3.急潮後、底層の栄養塩濃度が顕著に増加し、表層で植物プランクトンの現存量が急潮前より多くなり、約9倍に増加した場所もあった。 4.急潮により湾内の海水が流動し、これが底層の栄養塩濃度を増加させ、その結果表層の植物プランクトンが増加したと言う一連の変化過程が考えられた。 5.急潮の機能として、栄養塩のポンプアップ機能、水質浄化機能、回分培養機能、 植物プランクトン活性化機能が考えられた。
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