本研究の目的は、黒潮系の暖水塊が定期的に進入する内湾の一次生産機構を明らかにすることにある。この様な開放的内湾では植物プランクトンの現存量は黒潮の内湾への流入、すなわち急潮を起点とする外洋との相互作用を通して急激に減少し、その直後、短期間で回復する。しかし、なぜ現存量の急激な増加回復が起こるのかは解っていない。そこで、本年度は1)急潮による底泥付近の水質変化、2)急潮が起きたことを想定した海水のAGP試験、3)急潮による内湾のAGP変化、4)潮流、水質、植物プランクトンの動的連鎖関係の解析、5)湖沼や閉鎖性内湾の植物プランクトンの変動機構とは異なった機構が存在するかどうかに注目した、黒潮が流入する内湾に共通する植物プランクトンの増殖機構のモデルの提示を試みた。研究実績の概要は以下の通りである。 1.暖水塊が全層に入り終わり、湾外の海水が底層に回帰する時期に、底泥間隙水中の栄養塩濃度が著しく増加したことから、急潮の進入で有機物分解が著しく促進されたと考えられた。また急潮が進入し、底泥付近の濁度が増加した後、底泥間隙水栄養塩濃度は減少したことから、海水の流動により底泥が撹拌され、栄養塩が間隙水中から拡散したと考えられた。 2.急潮を想定した植物プランクトンの現場培養、および急潮前後の現場海水を用いたAGP試験よ、急潮は植物プランクトンを増加させることが解った。 3.外洋海水の内湾への定期的進入が底層の栄養塩濃度を上昇させ、かつこれを汲み上げるポンプアップの役割を果たし、この水質変動に連動して、植物プランクトンが増加するという一連の連鎖的変化が起きていることが明らかになった。
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