チラコイドエネルギー変換系の環境応答としての光化学形成調節の分子機構

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04454016
• 研究機関: 岡崎国立共同研究機構
• 研究代表者: 藤田 善彦 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 教授 (40013560)
• キーワード: 光合成 / 環境適応 / 光化学系量比 / 光化学系I合成 / 二光反応 / クロロフィル合成

研究概要

PSI複合体合成調節の仕組みを2つの方向から解析した。第1はPSI複合体のコアとなるPsaA/Bポリペプチドの合成である。調節がどのステップで起こるかを、mRNA生成、翻訳レベル、複合体形成に分けて調べた。mRNA活性をPSI光、PSII光下生育細胞の全RNAについて測定した所、どちらの細胞でも同じであり、また、mRNA活性の減衰も変わらなかった。従って、mRNA生成段階では制御を受けないと結論した。翻訳阻害剤の効果はPSI光下で抑制を受けているPsaA/B合成では、PSII光下で抑制が解除されているペプチド合成ほど強くなく、前者では阻害剤の薄い濃度下で顕著な促進が起こった。この阻害剤の効果の異なりは、翻訳レベルで制御が起こる事を示唆する。一方、後で述べるChl a合成のPchlide還元が同様な薄い濃度の翻訳阻害剤で促進されたので、Chl aがポリペプチドに配位する段階が制御段階と推定された。
第2はPSI形成に多量に必要とされる、Chl a合成系での制御の可能性の検討で、Chl a合成系の中間体の存在量の動態を調べた。その結果、少なくともPchlide還元以前、あるいは、Chl a synthetase以前では、制御を受けない事が判明した。しかし、PSI光下では顕著なPchlideの蓄積が起こる。この蓄積はChl a合成系の末端で制御が起こる事を示唆する。たん白合成段階の解析結果と合わせると、ペプチド合成レベルでのChl a配位の段階が制御されていると想像出来る。
光によるPSI/PSII変化と、他の光合成電子伝達に偏重を与える場合の変化と対比して見た。低CO_2条件、高NaCl条件ではPSII励起偏重と同じ効果があるが、この時もPSI量の変化によるPSI/PSII比の上昇が確認され、PSI/PSII比の変化は、必ずしも光質のみでなく、電子伝達状態の偏重に応じて誘起される事を明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] 池谷透,大城香,高橋正征,藤田善彦: "Photosynthetic characteristics of marine Synechococcus spp.with special reference to light environments near the bottom of euphotic" Marine Biology. 118. 215-221 (1994)
• [文献書誌] 阿部信一郎,村上明男,大城香,有賀裕勝,藤田善彦: "Changes in stoichiometry among PSI,PSII and Cyt b-f complex in response to chromatic light for cell growth observed with red alga" Plant Cell Physiology. 35. 901-906 (1994)
• [文献書誌] Gu.T.-Q.,岩間由美,村上明男,Adhikary,S.P.,藤田善彦: "Changes in the cytochrome c oxidase activity in response to light regime for photosynthesis observed with the cyanophyte Synechocystis" Plant Cell Physiology. 35. 1135-1140 (1994)
• [文献書誌] 藤田善彦,村上明男,相澤克則: "Accumulation of protochlorophyllide in cells of Synechocystis PCC 6714 with a low PSI/PSII stoichiometry" Plant Cell Physiology. 36(in press). (1995)
• [文献書誌] 大城香,藤田善彦: "Intracellular location of cytochrome oxidase active in vivo in the cyanophytes Synechocystis 6714 and Anacystis nidulans Tx20 and R2" Protoplasma. (in press). (1995)
• [文献書誌] 藤田善彦,村上明男,相澤克則,大城香: "Short-term and long-term adaptation of photo-synthetic apparatus" Molecular Biology of Cyanobacteria. 677-692 (1994)