本研究は、酸素発生を伴う光合成でPS I/PS II比が調整されることにより、光合成収率が維持されると言う我々が見出した調節現象の性格を更に明らかにする事を目的とする。 本研究では、PS I/PS II比の調節を3つの方向から解析した。第1は、PS I/PS II比変化を誘記するPSIたん白複合体形成の制御の仕組みであり、第2は、PS I/PS II比調節能を系統を異にする藻類での確認であり、第3は光質以外の光合成環境によるPS I/PS II比調節の検討である。 第1については、PS I光、PS II光生育の細胞のRNAについて、PsaA/B翻訳活性を調べ、転写レベルでの制御は考えられず、翻訳段階で制御されている事が示唆された。一方、Chl a合成についての制御の検討を、Chl a合成系の中間体の動態を調べる事で行った。結果は、Chl a合成が末端で制御され、その制御に回転の早いたん白が関与している事を示唆した。 第2では、紅藻アマノリと緑藻Chlamydomonas reinhardtiiについて、PSI光下及びPSII光下で生育した細胞の持つPSI/PSII比を検討した。いずれの藻種でもPSI/PSII比は、ラン藻と同様に、生育に用いる光質に応じて変化した。量比の変動はPSI含量の変動による事もラン藻と同じであり、PSI/PSII比の調節による光合成収率の維持と言う現象は、緑色植物の光合成系が一般的に持つ調節能力の表れである事を示した。 第3では、光質変化以外の光合成電子伝達に偏重を与える環境因子として、無機炭素源の分子形態と高NaCl濃度環境の効果について調べた。無機炭素源をHCO_3イオンとした場合、また、高NaCl濃度下では、循環電子伝達が促進され、PSI光からPSII光へのシフトと同じ電子伝達偏重が起きるが、いずれの場合も、PSI量の増加によるPSI/PSII比の増加をもたらした。これらの結果は、PSI/PSII比の調節が電子伝達状態に対応すると言う我々のモデルの正しさを立証するものである。
|