高等植物ゼラニウム(Pelargonium zonale)を材料として重複受精後、1)1個の受精卵から球状胚ができるまで、2)球状型胚からハート型胚が形成されるまで、3)ハート型胚から使用、葉芽、胚軸、幼根胚柄をもつ完成された胚までを大きく3段階に分けて解析することにした。平成4年度は1)の研究テーマを主に行い、次のような成果を得た。受粉後3時間毎に胚珠を取り出し固定し、脱水後テクノビットに包埋した。試料は0.5umとし、DAPIで染色後、蛍光顕微鏡で観察した。また卵細胞を1個の連続切片にし、観察後に再び細胞とミトコンドリアをコスモゾーンで3次元構築を行って調べた。ミトコンドリア核のDNA量の測定にはVIMシステムを使った。この方法で蛍光強度を測定し、その強度からDNA量を推定した。 受精直前の助細胞には沢山の均一な小さなミトコンドリア核を含むミトコンドリアが観察された。一方卵細胞には巨大なミトコンドリア核を含むミトコンドリアが発見された。これを3次元構築法を使って調べてみると、大きいものでは8-10層となり更に大きなミトコンドリア複合体を形成していた。複合体は卵細胞あたり約20個含まれていた。複合体に含まれているミトコンドリアのDNA量は通常に観察されるミトコンドリア核あたりの3000倍にも達していることが分かった。減数分裂後の卵原細胞では小さなミトコンドリアしか観察されなかったので極めて短期間で卵の成熟とともにミトコンドリア核DNA量が驚異的に増加したと考えられる。今後はBrdU蛍光抗体法やオートラジオグラフィを使って詳細にこの形成機構を解明する必要がある。一方受精後8細胞期になるとミトコンドリアは少し小さくなっている。従って巨大ミトコンドリアは受精後DNA合成を伴わない分裂によって分裂し小さくなって行くと考えられ、どの様な仕組みで小さくなるか今後の大きな研究課題である。
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