平成4年度は以下の地域にてアザミ属植物の現地調査を実施した。この野外で得られた押葉標本は約1000点に達し、備品費で購入したCPU等を用いてデータベース化が完了している。核型やフラボノド・パターンの解析については現在進めているところである。野外調査は、長野県白馬岳、群馬県尾瀬、福井県、岐阜県、九州などで実施したが、スペースの点で余裕がないので、成果を次ぎの2地域について報告する。 1)9月下旬から10月中旬にかけて福井県及び岐阜県美濃地方において調査を実施した。対象とした種類は、イナベアザミ、ナガエノアザミ、ハクサンアザミ、サワアザミなどである。野外調査を進めて行く過程で、2つの新分類群の存在が明らかになった。エチゼンヒメアザミとジャクエツアザミである(いずれも新称)。エチゼンヒメアザミは福島県に知られているアイヅヒメアザミに近縁な種で、福井県と岐阜県の県境付近に分布域が局限されている。また、ジャクエツアザミはハクサンアザミに近縁な種で、おそらくハクサンアザミとホッコクアザミとの雑種起源と推定される。これらについては平成5年度中にさらに詳しい調査を実施する予定である。イナベアザミは今回の調査によって福井県に分布することが確認された。福井県は分布域の北限となる。 2)10月中旬から11月上旬にかけて屋久島、九州南部の山岳地帯にて調査を実施した。これらは平成4年度に提出した交付申請書には記載されていない地域であるが、資料や情報が極めて不足しており、研究を進めて行く上で調査を実施する必要が痛感されたので追加したものである。対象とした種類はヤクシマアザミ、ノマアザミ、ツクシアザミ、オイランアザミ、ヘイケモリアザミなどであった。ヤクシマアザミの集団レベルでの変異を把握した結果、この種は台湾の高山生種アリサンアザミCirsium arisanense Kitamuraに極めて近縁であることが明らかになった。また九州南部の固有種ノマアザミも台湾の高山の特産種モモヤマアザミC.hosokawae Kitamuraに近縁であることが判明した。
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