研究概要 |
本年度はヒトX,Y精子の判定をより効率的かつ正確に行うためにFISH(fluorescence in situ hybridization)法の精子への応用を検討した。洗浄精子をジチオスレイトール処理して頭部を膨潤させ、カルノア固定をしてスライトグラス上にのせ実験時まで-80℃で保存した。その後、65℃でハードニングし、変性、脱水後ハイブリダイゼーションを行った。使用したプローブはX染色体の動原体部分を認識するDXZ1,Y染色体の動原体部分を認識するDYZ3,およびY染色体の反復領域を認識するDYZ1である。ビオチン標識のものはアビジン-FITCで、ジゴキシゲニン標識のものは抗ジゴキシゲニン-ロ-ダミンで発色させ、ピロピジウムイオダイト(PI)またはDAPIで核染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。ビオチン標識DYZ1をプローブとした場合ほぼ50%がXと判定され、ジゴキシゲニン標識DXZ1とビオチン標識DXZ3の二重染色ではXとYがほぼ1:1となった。キナクリンマスタード染色では200個の判定に10分程度を要し、かつ判定に熟練を必要とするがFISH法では1/(10)以下の時間でより正確な判定ができた。なおこれをもって無担体電気泳動で分画したX,Y精子の判定を行うべく鋭意努力を試みているが機械の調子が思わしくなくまだ決定的な結果を持てないことは誠に残念である。これとは別に分離した精子を卵内に注入するための予備実験としてタコノマクラやハスノハカシパンの未受精卵を材料として圧力と電力を併用したマイクロインジェクション法の開発を試みた。その結果微小ピペットを通して適当な電圧を細胞表面に加えると細胞膜が可逆的に破壊されてマイクロインジェクションが可能であることが分った。この方法は従来の電気穿孔法より細胞に対する影響が少ないと考えられ、今後の応用に期待を持たせるものである。
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