研究概要 |
今年度は特にヒラハコケムシを用いた個虫の二分岐出芽の規則性の解析に成果があがった。以下に箇条書にして述べる。 (1)出芽パタンに関し,「二個虫出芽の確率はその親個虫の状態(すなわち一個虫出芽か二個虫出芽か)に左右されない」との仮説を立て,確立論的Lシステムで期待値を出して実測値と比較したところ,二者はよく一到した。すなわち,親個虫の出芽型は娘個虫の出芽にあまり影響を与えていないことが明らかとなった。 (2)個虫の形状が出芽パタンとどう関係しているかを調べるため,二個虫出芽個虫と一個虫出芽個虫の形状を比較したところ,個虫の幅に関して二個虫出芽個虫と一個虫出芽個虫を分けるしきい値が見つかった。 (3)触手冠間最短距離は初虫からの距離に関わらずある値以上であり,また,ある値範囲に入っていた。このことは,隣接個虫からある一定距離はなれたところに新しく触手冠を分化させるようなアルゴリズムの存在が示唆された。 (4)個虫面積の最小値と最大値の比は1:7であるのに対して,ボロノイ多角形の面積の最小値と最大値の比は約1:3であったことから,面積の小さな個虫でも触手の活動範囲はある程度確保されていることがわかった。 (5)ボロノイ多角形の歪度は触手からの距離に依存していないことからも上記(4)が確かめられた。 (6)上記(3)〜(5)の結果から,出芽に当たっては,個虫自体の条件ではなく.触手の活動範囲の確保が優先していることが考えられる。したがって,群体の出芽パタンを決める要因としては,個虫の幅は別として,個虫そのものの大きさや形状よりも,触手冠の位置関係がより強く効いているものと考えられる。
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