研究概要 |
今年度は,昨年度に引き続き,ヒラハコケムシを用いた群体構造の数理解析に成果が上がった.以下に箇条書きにして述べる. (1)初虫からの距離と出芽パタンの関係において,群体成長の初期においては2個虫出芽個虫が多く,成長に従ってその数は線形に増加するのに対して,1個虫出芽個虫は初期において数が少ないが群体成長にともなって指数関数的に増加する. (2)2個虫出芽個虫から出芽した個虫は,1個虫出芽個虫から出芽した個虫に比べて,個虫長のばらつきが大きい.これは,2個虫出芽時に体長差をもうけることによって互いの虫室口の位置を遠ざけるためと考えられる. (3)ボロノイ多角形で評価した各個虫の摂食領域の形と面積がかなりばらつくことから示唆されるとおり,虫室口の配置は最密構造になっていない.個虫は,翻出した触手冠を左右に傾けることで,最密構造に近づけ摂食効率を高めている. (4)(3)を確かめるため,触手冠をずらして再配列するコンピュータシミュレーションを行った.その結果,最短触手間距離はシミュレーション前より平均して10%ほど長くなり,ボロノイ多角形の面積の分散は小さく,また,触手からの距離にともなうそのばらつきも小さくなった.ただし,ボロノイ多角形の歪度は,初虫からの距離300ポイント以降においては改善がみられなかった. 今回の結論として,ヒラハコケムシは群体内の個虫がそれぞれ摂食効率を最大に高めるために個虫および触手間を配置していることが,さまざまなデータから確かめられた.
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