研究概要 |
本研究は,サンゴ礁周辺の海底洞窟を対象として,隠生的軟体動物の生体・遺骸の調査を行い,その多様性・生活史の特徴と進化生物学上の意義を明らかにすることを目的とする。 平成6年度には,9月に宮古諸島の洞窟の再調査を行って,その特異な生態系を理解するとともに,新たに与那国島の調査を行い,多量の資料を得た。また,昨年度行った小笠原諸島の調査資料,別途に入手したフィリピンのセブ島およびボホール島の資料との比較を行い,洞窟性二枚貝類各種の地理的分布を予察した。 その結果,多くの異なった地域の洞窟動物群に次の特徴が共通的にみられることが明らかとなった。1)海底洞窟の軟体動物は少数のものを除くとほとんどが微小種である。2)捕食に対して無防備な"生態的原始性"を示す種が多く,かなりの数の遺存種がある。3)深海に共通する種はないが,深海的な属を多く含む。4)二枚貝には幼形進化(プロジェネシス)を示す種が多い。5)深海や寒海に似て卵黄栄養型や直逹発生型の種が占める割合が高い。6)一般に卵は大きく卵数は非常に少ないとみられる(いわゆるK戦略が卓越する)。7)洞窟奥部には分布の限られた固有種がしばしば見られるが,洞窟入り口付近には繁 殖戦略にかかわらず西太平洋に広く分布する種が多くみられる。 以上のすべての特徴は,外界に比べて捕食圧が低く,光合成が行われない貧栄養の環境に対する適応によると理解される。
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