研究概要 |
1.ロシア科学アカデミーに所蔵されているシベリアの永久凍土産の5万3000年より10000年前のマンモス化石5資料(筋肉,皮膚および体毛)および現存種のアフリカゾウ(肝臓組織試料)・アジアゾウ(血液試料),また系統樹作成の外群として絶滅種であるステラー海牛(骨試料)よりミトコンドリアDNAを抽出し,チトクロームb遺伝子領域307塩基対をはじめとした二三の遺伝子の領域の塩基配列決定を行い,ゾウ亜科の分子系統樹を構築した.その結果,これまでの主として臼歯などの形態に基づいて考察されたマンモスとアジアゾウがより近縁であるという通説とは異なりマンモスはアフリカゾウにより近縁であることが明らかになった.ゾウ類の系統解析に重要と考えられてきた歯の形態形質には食性を反映した収レン現象が生じていると思われる.また,分子時計によれば両者の分岐年代は約700万年前と推定される.なお,今回の4万3000年前のマンモス化石からのDNAの塩基配列決定は,コハク中の昆虫化石を除き,現在のところ動物化石では最も古いDNAの抽出および塩基配列決定例である.18世紀に絶滅したステラー海牛からのDNAの塩基配列も今回初めてなされたものである 2.化石記録の豊富な海生腹足類キサゴ類を対象に,現生種のミトコンドリアDNAの二つの遺伝子の領域(16S rRNA 900塩基対,Co-II 419塩基対)の塩基配列データに基づき分子系統樹を作成し,化石記録と形態に基づく系統樹と比較検討した結果,形態にもとづく系統樹はクレードでは無く生態型を反映したグレードであり真の系統関係を反映していないことが判明した.また,キサゴ類の種分化は海洋気候の温暖期より寒冷期に向かう時期に集中して分布の縁辺地域で生じていることが判明した.
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