研究概要 |
本研究の目的は,保存状態が極めて良い化石資料からDNAの抽出を試み,抽出されたDNAを基質としてPCRによって特定の遺伝子領域を増幅した後,塩基配列の決定を行い,近縁の現存種の遺伝子情報と比較し,生物の系統進化を明らかにすることにある.研究計画に示された内容について研究期間中に以下の成果を得た. 1.化石骨などの化石資料からのDNAの抽出法,化石化の過程で低分子化したDNAを基質としてかつ生体高分子の続成過程で生じた多くの阻害物質を克服してPCR反応を効率的に進行させる方法といった実験手法の問題につき基礎研究を行い手法を確立した. 2.ロシア科学アカデミーに所蔵されているシベリアの永久凍土産の5万3000年より10000年前のマンモス化石および現存種のアフリカゾウ・アジアゾウよりミトコンドリアDNAを抽出し,チトクロームb遺伝子領域307塩基対をはじめとした二三の遺伝子の領域の配列決定を行い,ゾウ亜科の分子系統樹を構築した.その結果,これまでの形態に基づく系統関係の通説と異なりマンモスはアフリカゾウにより近縁であることが明らかになった.また,分子時計によれば両者の分岐年代は約700万年前と推定される.なお,今回の4万3000年前のマンモス化石からのDNAの塩基配列決定は,コハク中の昆中化石を除き,現在のところ動物化石では最も古いDNAの抽出および塩基配列決定例である. 3.化石記録の豊富な海生腹足類キサゴ類を対象に,現生種のミトコンドリアDNAのいくつかの遺伝子領域の塩基配列データに基づき分子系統樹を作成し,化石記録と形態に基づく系統樹と比較検討した計果,形態にもとづく系統樹は生態型を反映したものであり真の系統関係を反映していないことが判明した.また,キサゴ類の種分化は海洋気候の温暖期より寒冷期に集中して生じていることが判明した.
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