本研究の目的は、光圧力と静電力を用いた個別DNAのマイクロマニピュレーションの手法を確立し、それを用いて塩基配列解析用試料作成法の検討を行うことにある。本年度はこの目的に対し、個別DNAの観察法の確立、光圧力と静電力による個別DNAの選別・輸送方法の実験的検討を行った。個別DNAのマイクロマニピュレーションを行ううえで、個々のDNA分子をリアルタイムで観察することは必要不可欠である。しかしながらDNA分子の直径は2nmであり、蛍光観察を行っても鮮明に観察することは困難である。本研究において、蛍光染色条件の最適化、光学系の改善を行い鮮明に観察できる条件を見いだした。特に高感度の蛍光染色を行った場合、蛍光強度が急速に低下し、マイクロマニピュレーションを行うに十分な時間鮮明な観察を続けることが困難であったが、この問題点を試料と含む液体を凍結させる、あるいは凍結直前まで冷却することで解決できたことは、今年度の大きな成果である。冷却下ではDNA分子のブラウン運動が小さく、また拡散を抑制できる。このため集光したレーザの光圧力により、個々の分子を捕捉して操作できることが判明した。また、凍結状態において、レーザ焦点付近の微小範囲を溶かし、焦点を動かすことで、個々のDNA分子を輸送・選別可能であることが実験的に明らかになった。このほか、ビオチンーアビジン反応を用いて、DNAの一端にラテックス粒子を結合させるときの反応条件を求めた。また、1MHz、10^6V/mの高周波電界によりDNA分子の伸張、および10μmのタングステン線への巻取が可能であることを実験的に示した。
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