作物は湿潤条件に生育し、根の周りに吸水可能な水が充分にあっても蒸発散の盛んな条件下で穂や葉が急激に水分を失い枯死することがある。このような作物体の急激な水分の減少は水の通導抵抗の著しい増加によっておこる。そこで本研究は水の通導抵抗の増加の機構を明らかにするため、キュウリと水稲を用いて検討を行った。結果の大要は以下の通りである。 1.(1)キュウリの急性萎凋は主として茎基部における水の通導抵抗が著しく大きくなることによっておこる。そしてこの水の通導抵抗の増加は導管にチロシス(tyloses)が多く形成されることによっておこる。(2)萎凋の認められない健全なキュウリの根群の一部を切除すると、葉の水ポテンシャルの低下に伴って茎基部の水の通導抵抗が増加し、チロシスの形成も多く認められた。(3)チロシスは蒸発散の盛んな条件で吸水が蒸散に追いつかず、葉や茎の水ポテンシャルが低下すると発生する。そして一度チロシスが形成されると水の通導抵抗の増加、茎葉の水ポテンシャルの低下、チロシスの形成の増加が正のフィードバックで進む。 2.(1)高温乾燥強風条件における水稲の白穂は止葉節から穂首節までの水の通導抵抗の著しい増加によって起こる。そしてこの水の通導抵抗の増加は高温乾燥強風条件で穂の蒸散速度が増加し、穂の水ポテンシャルひいては茎の水ポテンシャルが低下することが引金となっておこる。(2)白穂となった水稲の止葉節から穂首節までの茎の導管にはチロシスの形成や損傷が認められなかったことから、茎の水の通導抵抗の増加には、茎の水の通導抵抗に関係するもう1つの要因、すなわち、導管内に空気が入り込むキャビテーション(cavitation)が関係しているらしい。
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