花芽分化におけるCa^<2+>の役割を究明するために、ニホンナシ‘新水'の短果枝上の芽を材料にし、ピロアンチモン酸カリでCa^<2+>を沈澱する方法とEGTA処理により電子顕微化学的にCa^<2+>の検出を行った。Ca^<2+>粒子密度は細胞の分裂活性の程度によって異なった。短果枝上の芽においては6月5日までは粒子は少なかったが、6月26日、茎頂の内体細胞が活発になった時、粒子数は急激に上昇して最高になった。しかし、その後は7月3日、7月10日と減少した。7月17日がく片原基分化時に最も少なくなった。 花芽分化の前には細胞核中のCa^<2+>粒子の密度は低く、その密度の増加は形態的な花芽分化が始まる兆候であった。核内においてCa^<2+>は主に核液中に分布し、核仁の顆粒区域と核仁から放出されたようにみえる物質中にも存在したが、核仁の繊維区域と染色体および集団クロマチンには存在しなかった。 細胞壁はCa^<2+>粒子の主な分布場所であったが、花芽分化開始後細胞内Ca^<2+>粒子密度が高い時期には細胞壁のCa^<2+>粒子は逆に減少した。一方、液胞中には通常Ca^<2+>粒子がきわめて少ないが、細胞中のCa^<2+>粒子密度は急激に上昇した時には、液胞中にもCa^<2+>が一次的に多量に分布した。色素体は6月5日までCa^<2+>粒子の大部分をその中に保持し、それ以後もCa^<2+>粒子の主な分布場所であったが、細胞内Ca^<2+>粒子密度が急に上昇した6月26日には、色素体内のCa^<2+>は、逆に減少した。これに対して、ミトコンドリアとゴルジ体および小胞体中のCa^<2+>粒子は細胞質のCa^<2+>粒子密度と同じように変化し、6月26日の花芽分化後に、明らかに増加した。 以上のように花芽分化に伴い茎頂細胞において、核や小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞内器官においてCa^<2+>が増加したことは、Ca^<2+>が花芽分化に大きな役割を果していることを示唆している。
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