ニホンナシの花芽分化の機構を解明するために、品種新水の短花枝の芽を新梢上の葉芽と比較しながら、頂端分裂組織の細胞形態、細胞の微細構造、さらには細胞内Ca^<2+>の分布などについて主として電子顕微鏡によって観察した。 形態的花芽分化の徴候は6月26日に認められ、内体細胞の活動が高まった。7月10日にがく片原基が分化しはじめた。7月17日に花弁原基が、7月30日に雄ずい原基が、9月20日頃に雌ずい原基が分化した。茎頂は外衣、内体、静止帯および髄部に分けることができた。花芽分化の進行につれて外衣層数は減少したが、内体層数は増加して茎頂が肥大した。静止帯細胞ではデンプン粒とが著しく増加したが、がく片期以後ではほとんど消失した。一方新梢上の葉芽では同じ時期に茎頂の肥大もデンプン粒の蓄積も観察されなかった。 6月26日から7月10日にかけて、花芽分化中の茎頂の細胞の微細構造に著しい変化が認められた。ゴルジ体の数は増加し、多数の分泌小胞が認められた。小胞体は分布密度が高まり付着する数や大きさも増加し形も楕円または球状となった。細胞核はクロマチンが増加し、染色濃度も濃くなった。核仁も大きくなった。 ピロアンチモン酸カリでCa^<2+>を沈殿させる方法で電子顕微化学的に細胞内のCa^<2+>を検出した。Ca^<2+>粒子は花芽分化前には少なかったが、6月26日茎頂の内体細胞が活発になった時に最も増加し、その後7月10日のがく片原基分化にかけて減少した。核内においてCa^<2+>は主に核液中に分布し、花芽分化時に著しく増加した。細胞質内において小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア中のCa^<2+>も6月26日の花芽分化時に増加したが、その後減少した。 以上の結果は形態的な花芽分化の直前に、茎頂細胞で核酸、タンパク質合成が活発になること、Ca^<2+>が花芽分化に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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