青果物のエチレン生成の誘導機構を電気生理学的手法を用いて調べた。 1.これまでに開発した通電によるエチレン生成の誘導方法には、電極表面での電気分解による組織崩壊があり、傷害エチレンが含まれている懸念があった。そこで、寒天橋を用いて電極が直接組織に触れないように通電方法を改良した。改めて通電によるエチレン生成の誘導様相を確認したところ、キュウリ、トマトおよちカボチャで、通電刺激に反応した急速なエチレン生成の誘導がみられた。このエチレンは、ACC含量の蓄積とACC synthaseおよびACC oxidaseの活性化を伴っており、青果物自体の生理反応に基づくものであることを再確認した。 2.キュウリ果実を用いて通電によるエチレン生成誘導をACC synthase遺伝子の発現面から調べたところ、少なくとも6種類の遺伝子が存在し、この内5種類が通電によって発現した。これらの遺伝子には、傷害、オーキシンおよび高濃度炭酸ガスで発現するものも含まれていた。また、キュウリと同じウリ科植物であるメロンとカボチャ果実の傷害型、成熟型およびオーキシン型ACC synthase遺伝子との間で高い相同性を示した。 3.通電によるキュウリ果実のエチレン生成誘導の内的な初期反応部位の特定を、電気インピーダンス解析により行った。等価回路として5素子モデルを用い、マルカートのアルゴリズムによる非線形最小二乗法を適用した数値演算により、通電に伴う各素子の値の変化を求めたところ、細胞外抵抗、原形質抵抗およびトノプラスト容量が大きく増加した。この内、細胞外抵抗の増加のみ、エチレンの作用性阻害剤であるジアゾシクロペンタジエンの前処理でほぼ完全に消失した。このことより、通電は原形質pHとトノプラスト状態の変化を通じてエチレン生成を誘導すると思われた。
|