1.植食性昆虫と植物の個体群間相互作用を記述する2種類の基本数理モデルの枠組みを作成した。1つは相互作用の大枠を捉える微分方程式型の比較的単純な寄主一寄生者モデルで、両者間の体サイズや生活史特性の大きな相違、昆虫の加害に対する寄主側の補償作用の存在、寄主の固着性、さらには昆虫の捕食者の抑圧効果など、ロトカ-ヴォルテラ式をはじめとする従来の捕食者一被食者モデルに含まれない諸仮定を組み入れることによってこの相互作用系の特質を抽出すべく、解析を進めている。いま1つは、植物個体群を個別の成長・生存パターンを持つ個体の集団として捉えそれらを加害する昆虫の個体レベルの行動や反応を環境構造の特質とともに組み入れた、より具体的なシステムダイナミックスモデルであり、ここでは昆虫の分散・寄主選択行動や植物側の防御反応といった個々の生態特性が相互作用系の生態・進化的動態にどのような意義を持ちうるかをコンピュータシミュレーションにより解析するためのものである。 2.イヌガラシ、カガノアザミ、ヤナギ類のそれぞれの自然植生上の昆虫群集についての継続調査データをもとに、野外における食植性昆虫群集の実態解析を行いつつある。詳細な定量解析にはなおデータの蓄積が必要だが、多種の植食者が同一寄主の同一ニッチを共有するが種別の密度は概してきわめて低く種間競争は通常起こっていないこと、そのような低密度制御に対して多食性の捕食者がかなりの役割をはたしているらしいことなどが示されている。別に、邦産鱗翅目のうち知見が充実しているチョウ類228種について食性や分布などの生態情報をデータベース化して比較解析を進め、チョウ類では近縁種群の食餌植物は概して1ないし2、3の科に限られ狭食性を示す種が大部分であるが、ごく近縁で分布が重なる同属種間では餌植物種を異にする例が多いことを明らかにし、その意義を考察した。
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