研究概要 |
本研究は、エンドウの防御反応応答のシグナル伝達に及ぼすエリシターやサプレッサーの影響を調べるとともに、エンドウの防御反応の一つであるピサチン(エンドウのファイトアレキシン)合成系の鍵酵素、フェニールアラニンアンモニア・リアーゼ(PAL)およびカルコン合成酵素(CHS)をコードする遺伝子に焦点を絞って、エリシターによる発現誘導やサプレッサーによる発現抑制といった遺伝子発現調節に必要なシス因子・トランス作働因子を明らかにしたものである。以下に、本研究で得られた知見を要約する。 1)エンドウ褐紋病菌由来エリシターによるエンドウの防御反応応答活性化のシグナル伝達には、ポリフォスフォイノシトール(PI)・リン酸代謝、すなわち、PIキナーゼやPIPキナーゼが活性化され、その結果生ずるDAG(diacylglycerol),IP3がセカンドメッセンジャーとなって、上記PAL,CHS遺伝子の核内における転写活性化を誘導する。また、サプレッサーはエンドウ原形質膜ATPaseを特異的に阻害することにより、エリシターを介した防御反応応答活性化のシグナル伝達系をブロックする。このことから、ノシトール・リン酸代謝系と原形質膜ATPaseとはクロストークしていることが予想される。 2)二つのメンバーのフェニールアラニンアンモニア・リアーゼ遺伝子(PSPAL1,PSPAL2)、および二つのメンバーのカルコン合成酵素遺伝子(PSCHS1,PSCHS2)のエリシター誘導応答に必要なシス領域の絞り込を行ったところ、両PAL遺伝子では、ボックス2、4、また両CHS遺伝子遺伝子ではボックス2まで削りとるとエリシターによる誘導応答が急激に減少することが明らかとなった。 3)さらに、エリシター処理、あるいはサプレッサー処理したエンドウ組織体より核タンパク質を抽出し、gel shift assay,competition assayを行い、エリシター誘導に必要なDNAシス因子と結合タンパク質の割だしを行ったところ、少なくとも二種類の核タンパク質の結合領域が確認され、いずれもATに富むシークエンスを認識していることが明らかとなった。
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