研究概要 |
天蚕の休眠は,胸部に存在する抑制因子(RF)と腹部から放出される成熟因子(MF)の拮抗作用で調節されるとする仮説(Suzuki et al.,1990)が提唱されている。一方,ecdysteroidは天蚕の発生過程の胚子並びに休眠前の前幼虫に対し,発育を抑制する事実(談ら;1990,小林ら;1992)があることから,天蚕の休眠調節機構について再検討を行った。天蚕培養胚子と結紮法を併用し,産卵後1日の胚子から100日までの前幼虫について,imidazole化合物とecdysoneに対する発育時期別の応答を調査した。また,ecdysteroidと休眠との関係を調べるため産卵直後から蟻体の完成するまでのホルモン量の消長をradioimmunoassayで測定した。一方,Antheraea属の種間近縁性についても調査を行い,つぎの結果を得た。 1)天蚕休眠は,RFとMFの拮抗作用で調節される事実と,RFはimidazole化合物によって制御できることを追認した。一方,天蚕の胚子発生期におけるecdysteroidの消長は,産卵後10日目に量的増大が認められることから,休眠にこのホルモンが関与する可能性が考察された。また,培養胚子によるホルモン検定の浸漬法は,^3H-ecdysoneを用いての追跡調査から,皮膚の透過性に関して有効であることが判明した。 2)天蚕,柞蚕の卵巣にはecdysteroidが存在し,その生理意義を調べるために,まず,卵形成期のタンパク質を同定,ビテリンが主要タンパク質であることが判った。引き続き,天蚕,柞蚕に特異的な脂肪体雌特異タンパク質(24KDa;24K)の精製と性状調査を進め,アミノ酸組成とN-末端配列を決定した。その結果,卵巣外組織で合成されるビテロジェニンとはアミノ酸ホロモジーでなく,新しいタンパク質であることが判明した。24Kは5齢4日から9日に脂肪体で合成されその後同じ脂肪体に貯蔵された。 天蚕,柞蚕の体液,脂肪体および卵巣タンパク質にはいくつかの相違がみられた。そのうちビテロジェニンとビテリンは両種間で分子量が異っていた。それを精製して調べたところ,柞蚕ビテロジェニンは分子量210,000のサブユニットから成り,天蚕ビテロジェニンは170,000と45,000の2種のサブユニットで構成されていた。ビテリンラージサブユニットのアミノ酸配列には2種間にホモロジーのあることが解析された。
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