研究概要 |
本研究は、抗原に対するB細胞の抗体応答機構の解明さらに高効率ワクチン及び高機能リコンビナント抗体の創製を目標として抗原分子中のエピトープ構造に対して産生される抗体の特徴を遺伝子レベルで解析することを目的としたものである。抗原としてβ-ラクトグロブリン(β-LG)の21-40領域に注目し、この領域が 1)ハプテンになっている場合 2)遊離のペプチドである場合など異なる状態で存在する免疫原として用い、共通のペプチド部分に対して産生される抗体の遺伝子構造を解析した。まずBALB/Cマウスから得られたB細胞ハイブリドーマを用い、抗体遺伝子を調ベた。すなわち、Keyhole lympet hemocyaninにβ-LG由来ペプチド22-36領域または25-34領域を結合させ、これを免疫原として調整されたIgG1産生ハイブリドーマ(LG3.1,3.2,3.3;いずれも21-40領域に結合できる。)のheavy chian可変領域cDNAの塩基配列を決定した。その結果、LG3.1,3.2,3.3のV遺伝子(V_H)はそれぞれファミリーQ52,7183,VGamに属するものを使用していることが明らかとなった。これらは成熟マウス由来のB細胞ではその使用頻度は低いファミリーであるため、抗原が抗体の遺伝子に対して選択を行ったことが示唆される。しかし抗原結合部位であるCDR(complementarity determining region)のアミノ酸配列に相同性が認められなかったため、抗体遺伝子における偏りは、抗原がCDRのアミノ酸配列を選択したことに起因しないと考えられた。次に21-40を免疫して調製したIgM産生B細胞クローン12-1と14-1のheavy chain可変領域cDNAの塩基配列を決定し、ともにJ558ファミリーを用いていることが明らかとなった。このファミリーとLG3.1,3.2が用いていたV_Hファミリーとの塩基配列の相同性は低かった。したがって認識部位が同じであっても免疫原の形態によって異なるgene usageのB細胞が誘起される可能性が示唆された。
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