ホスファチジルイノシトール(PI)-3キナーゼは85KDサブユニット、110KDサブユニットからなる。細胞増殖の調節と深い関係があると思われるがその生理的役割はまだはっきりしない。この点を解明するために本酵素の精製標品が必要であるが、通常の方法では長い過程を必要とし、収率もよくない。そこで、モノクローナル抗体を用いた簡便な精製を試みた。ヒトPI-3キナーゼ85KDサブユニットcDNAを大腸菌で発現させ、マウスに免疫し、多種の抗85KDサブユニットモノクローナル抗体を分離した。それらのエピトープをマップしたところ、85KDサブユニット分子に広く分布していることがわかった。反応性を調べたところ、85KDサブユニット分子のアミノ末端、カルボキシル末端領域にエピトープをもつものは85KD、110KDサブユニットのヘテロダイマーを免疫沈降できたが、分子中央部をエピトープとするものでは免疫沈降できなかった。85KDサブユニット単独のものは免疫沈降できるので、110KDサブユニットと結合することによって、85KDサブユニットの中央部は覆われてしまうと思われる。次に、モノクローナル抗体を用いての酵素精製を試みた。数種調べた中で、一種の抗体(AB7)が効率よく、本酵素と結合し、高pH条件下で遊離することがわかった。しかし、本酵素は高pH条件下では比較的不安定なことが判明したので、合成ペプチドによる溶出を試みた。AB7のエピトープを含むペプチドを大腸菌で合成させ、精製し、競合剤として用いた。約1000倍の合成ペプチドを投入することで、酵素活性を保持したままで溶出できた。比較的簡便に精製標品を得ることが可能になったので、PI-3キナーゼの酵素化学的解析が容易になった。
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