増殖因子や分化因子による種々の細胞応答のメカニズムについて2次メッセンジャーの生成という視点で研究を進めた。特に、増殖因子や分化因子刺激に応じて速やかに活性化されるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)に注目し、その活性化機構、生理的役割について検討した。まず、P13Kの各部位の役割を明らかにするために、各部位を認識するモノクローナル抗体を作製した。85KDサブユニットのうちαタイプのアミノ酸末端側約2/3の各部位に対するものは前年からの研究で得ていたが、カルボキシル末端側のものはなかった。そこがカルボキシル末端側のペプチドを用いて免疫することでこの部位に対するモノクローナル抗体を得た。得られたモノクローナル抗体パネルを用いて、各種癌細胞株におけるαタイプ85KDサブユニットの発現を調べた。その結果、1つの細胞株HCC2998において野性型のものが存在せず、カルボキシル末端が欠欠落した変異型を発見していることがわかった。この変異と細胞の癌化に関連については検討中である。もう一方の110KDサブユニットに関してもモノクローナル抗体の作製を試みているが 今のところ成功していない。また、破骨細胞におけるPI3Kの生理的役割について検討した。PI3Kの阻害剤Wrotmauninを作用させたところ、骨吸収を抑制した。これは、ラッフルドボーターが形成されないためであることがわかった。また、同時に破骨細胞内に形成されるF-アクテンの構造体ポソドームも消失した。このとき、繊維芽細胞内に見られるストレスファイバーは影響を受けなかった。これらのことより、アクチンの重合には精巧な調節機構があり、PI3Kはポソドームの形成のために必要であることがわかった。ラッフルドボーダーとポソドームの形成の関係については現在検討中である。
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