植物ミトコンドリアのエネルギー産生F_1ATPaseはα、β、γ、δ、δ'、εの6種のサブユニットで構成され、ミトコンドリア遺伝子に支配されるαサブユニット以外は核遺伝子に支配されている。サツマイモの近縁2倍体野性種のゲノミックライブラリーを作成し、サツマイモのεサブユニットcDNAをプローブとしてスクリーニングして、cDNAの全域をカバーするクローン2種を得た。このεサブユニット遺伝子の一つについて全塩基配列を決定し、1つのイントロンに分断された2つのエキソンよりなることを明らかにした。もう一種の遺伝子の第1エキソンは先の遺伝子のそれとは81.6%の相同性しか示さず、少なくとも2種類の構造の異なるεサブユニット遺伝子が存在することが明らかになった。同様にして、サツマイモからδ'サブユニットの2種の核遺伝子クローンも単離した。この2つの遺伝子も1つのイントロンに分断された2つのエキソンよりなっていたが、2種の遺伝子の間でエキソン部分の違いはほとんど見られなかった。さらに、先に単離し全構造決定をしていた2種のδサブユニット遺伝子の5'上流域とGUSとの融合遺伝子を作成し、それらの融合遺伝子を導入したタバコ再生個体とタバコ培養細胞を得て発現を比較検討した。その結果、この2種の融合遺伝子はいずれもタバコ再生個体のどの器官でも発現がみられ、葉や茎ではミトコンドリアを多量に含む伴細胞を含む篩部において特に強い発現が見られた。しかし、器官別の発現レベルででみると、特に根における発現レベルで2種の融合遺伝子の間に顕著な差がみられ、またタバコ培養細胞の増殖過程における2つの融合遺伝子の発現パターンにも違いがみられた。このように、少なくともサツマイモのミトコンドリアF_1ATPaseのいずれの核支配サブユニットにおいても複数の遺伝子が見出されているが、以上の結果は個々の遺伝子によって発現パターンが異なる可能性を示唆している。
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