植物細胞にはミトコンドリアと葉緑体の両方に、それぞれ独自のATP合成酵素複合体、F_1-およびCF_1-ATPase(ATP synthase)、が存在する。F_1-およびCF_1-ATPaseはそれぞれミトコンドリアの呼吸系および葉緑体の光合成系電子伝達系の作動によって生じるH^+濃度勾配を利用したH^+の膜輸送に共役してATPの合成を行なっている。両オルガネラのF_1ATPaseが細胞内ATP供給において果す役割は、植物の生長・分化に伴って、あるいは環境要因の変動に伴ってダイナミックに変動するが、こうした変動はしばしば細胞内での2つのオルガネラの形成・発達の違いを反映している。従って、植物の生長・分化に伴うF_1ATPaseのバイオジェネシスとその制御を追及することで、オルガネラの形成発達の制御の一端を知ることができると期待される。 本研究ではこうした背景のもとに、植物ミトコンドリアのF_1ATPaseのバイオジェネシスとその制御を理解するために、まずそれを構成するサブユニットの遺伝子を同定し単離することを目標に研究を進め、これまでに単離されていなかったサブユニットのcDNAの全てを単離して構造を決定した。この結果、植物ミトコンドリアのF_1ATPaseを構成する全てのサブユニットについて、遺伝子あるいはcDNAが単離され、それぞれのサブユニットの全一次構造が明らかにされた。また、本研究では幾つかの核支配サブユニットの核遺伝子クローンの単離とその解析も進めることができた。
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