佐渡における1991年台風19号の状況について当時の現地気象測定記録を分析した結果、気温が高く湿度の低い希にみる強風が通過したことが確認された。洋上から吹き上げられた塩水は陸部内遠くまで運ばれ、スギの塩害を大きくした。付着後の塩水が乾燥により濃度を高めたことが被害を大きくしたと考えられる。塩害の発現は、当時の風の状況を示す有力な指標になった。佐渡全域のスギ塩害図を作成した意義は大きい。 幹折れ、根倒れの風害もスギの優良人工林に多く見られる。破壊力の強い風の通過跡は、国仲平野の中心を通る南西から東北へ抜ける巾数kmの帯状地帯に集中していた。また、樹木の集団としての森林の被害については、相川町南方辺及び矢柄地区のスギ林の破壊状況が激甚で、地形の影響が強く認められる。 この台風による破損木の多くはスギとアカマツであったが、幹および枝を試料としたスギの室内曲げ試験では、通常のスギ材の試験値に比べて、ヤング係数が低く破壊強度値がやや高いという結果を得た。それらの値をもとに、風による枝・幹の曲がりを考慮した変形計算を行った結果、強風に対してしなりやすく折れにくいという佐渡のスギのイメージが認識された。 演算の過定で変形計算が収束せず振動現象の起こる場合のあることがわかり、樹形や樹幹の力学的条件次第では比較的弱い風力によっても破壊されるという固有振動の問題が浮かんできた。ただし、この問題は、樹幹の変形計算のみならず運動方程式を基礎から見直す必要があり、研究の緒についたばかりである。 試行的な計算で得たもう一つの成果は、風圧の計算としてこれまでの伝統的な簡便計算では実際の幹折れの状況に適合せず細かく区分計算する必要のあることを明確にしたことである。
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