研究概要 |
我国で最大の高層湿原が残されている北海道宗谷支庁管内サロベツ原野において,湿性植物群落の水収支および水分生理特性について現地調査を実施した。調査は乾燥化の程度および植物群落構造がことなる4地点において水位,中央部1ヶ所で気温と日射の長期観測を行なうとともに,植物群落の構成種や植物種別の葉面積あるいは乾物重などを層別に詳しく実施した。また,湿原を代表する植物の一つであるヤチヤナギを対象として水分状態による植物根系構造の変化についても調査を行なった。地表の水収支を規定する最も重要な要因である気孔抵抗については購入したスーパーポロメータを用いて植物構成種・群落構造・乾燥化の程度ごとに詳細に観測した。得られた結果は以下にまとめられる。 1)調査地域の植物群落は乾燥化の程度などにより,a.チマキザサが優先するササ群落,b.ササが高属湿原に入り込んでいる前線付近のササ・高層湿原境界群落,C.ミズゴケにヤチヤナギ・イソツツジなどが見られる高層湿原A,d.ミズゴケとホロムイスゲが優先した高層湿原B,e.ヌマガヤ・ヨシが優先しコバイケイソウなどが見られる中間湿原,f.ヨシが優先する低層湿原の6群落に分類された。 2)植物種別の気孔コンダリタンス(気孔抵抗の逆数)をほぼ同じ光条件下で比較するとヤチヤナギが最も大きくして1.2cm/S,ハイイヌツゲ・ササがその1/3の0.4cm/S,ヌマガヤ・イソツツジ・ホロムイツツジでは1/2の0.5〜0.6cm/Sであった。 3)ヤチヤナギの根系の形態は地下水位が低い地点から高い地点に向うにつれて地下茎直径は減少,地下基長は長くなる傾向を示した。 4)ササの気孔コンダクタンスは光量400μmol/m^2・Sで飽和に達する傾向が見られたが,飽和のレベルには地点間の差、季節による差が見られた。
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