本研究は、暑熱ストレスが家畜の繁殖機能を阻害する生理的機序を解明し、その防御策の開発に資することを目的としている。研究初年度である平成4年度には、日本在来の小型ヤギ(シバヤギ)を供試動物として、以下の二つの課題について実験を行った。 〔課題1〕下垂体および卵巣のホルモン分泌に対する暑熱ストレスの影響評価 あらかじめ長日処理(明期16時間:暗期8時間)により生殖機能を停止せしめた無発情動物を用い、これらの動物に低用量の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を反復投写したときに見られる卵胞発育および排卵反応を指標として、暑熱ストレス(38℃、相対湿度50%)の影響を調ベた。その結果、暑熱ストレスを負荷された動物では正常動物で見られる卵胞発育および排卵が完全に阻止されること、またこの時、GnRHに反応して下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの分泌量および分泌パターンには非ストレス動物との間に差がないことが明らかとなった。このことより、本実験系においては、熱ストレスの作用点は下垂体レベルではなく、卵巣レベルにあるものと推察した。 〔課題2〕視床下部の生殖中枢に対する暑熱ストレスの影響評価 近年、視床下部のGnRH分泌をモニターする方法としてその有効性が注目されている多ニューロン発射活動の連続記録法を雄のシバヤギに適用し、この手法の有効性について検討した。その結果、下垂体のLH分泌と同期する神経発射活動の記録に成功し、視床下部レベルにおける暑熱ストレスの影響を評価する実験系が確立した。現在、この系を用いて実験を継続中である。
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