熱帯での家畜生産を阻害する要因に一つに暑熱ストレスによる繁殖機能障害がある。本研究では、シバヤギをモデル動物に用い、主に視床下部-下垂体-卵巣の内分泌機能を中心に基礎的な解析を行うとともに、熱帯地域の主要な家畜である水牛について牛を対照とした比較環境生理学研究を実施し、熱帯での動物生産振興に必要な基礎資料を得ようとした。得られた結果は以下のとおりである。 1.卵巣摘出ヤギに一定量の卵巣ステロイドホルモンを処理した性周期モデルを用い、常温および高温環境下で下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌(LHおよびFSH)を解析した結果、性腺刺激ホルモンはパルス状およびサージ状のいずれの分泌モードについても暑熱ストレスの影響を受けなかった。また電気生理学的手法を用いて視床下部のGnRH分泌を解析した実験でも、熱ストレスによる分泌抑制は認められなかった。 2.長日処理による無発情ヤギに一定量のGnRHを投与した実験系では、熱ストレスによる性腺刺激ホルモンの抑制はみられないにも関わらず、卵胞ホルモンの顕著な低下と排卵抑制がみられ、このことから熱ストレスによる卵巣機能の低下は中枢性ではなく、末梢性であることが示唆された。 3.卵巣動脈の血流量に対する熱ストレスの影響を調べた結果、卵巣血流量は卵巣ステロイドホルモンとくに黄体ホルモンの影響を受けるものの、熱ストレス自体は血流量に影響しないことが明らかになった。 4.水牛の耐暑性および体温調節機構を牛のそれと比較した研究では、水牛は皮膚および呼吸気道からの水分蒸散による放熱量が牛よりも少なく、代わって体表からの顕熱放散量が多いことが示された。 5.また、動物を高温環境に暴露したときにみられる血液量の変化および体表血流量の変化を比較した実験から、水牛は高温環境下で速やかに血液量を増やし、体表血流量を増加させることが明かとなり、この水牛の特性は水浴という習性に適合した生理的適応であると結論された。
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