研究概要 |
小型齧歯類から大動物に至る各種動物の心拍変動および心電図波形の変化を詳細に解析して、獣医学領域における新しい非侵襲的自律神経機能評価法を確立し、それを病態動物に応用することを研究目的としている。 本年度は小型齧歯類としてハタネズミ、中動物としてシバヤギおよびイヌ、大動物としてウマを研究の対象に選び、まず、通常の飼養管理下にある個体の長時間心電図記録を行った。ハタネズミにはテレメトリーシステムを適用して無麻酔、無拘束下の心拍動を自発運動と同時記録し、シバヤギ、イヌでは麻酔下、有線方式で心電図、呼吸運動、血圧の同時記録を、ウマについては妊娠中期から後期にかけて繁殖雌馬の馬房内安靜時心電図のみの記録を行った。 得られた各種の心電図記録についてECG processorを用いてアーティファクトや不整脈を除く編集をしたのち、高速フーリエ変換法による心拍変動パワースペクトル解析を試みたところ、動物種ごとにそれぞれ特徴あるパワースペクトラムを示すことが明らかとなった。すなわち、ハタネズミでは自発運動に一致したウルトラディアンリズムの影響が顕著に表現され、イヌでは呼吸運動に一致した大きなパワーが観察された。一方、ウマの場合は低周波数域に集中して顕著なパワーが認められ、今回対象としたいずれの動物種においても、ヒトでいわれているような低周波成分(LF:0.004〜0.15Hz,交感神経機能の指標)および高周波成分(HF:0.15〜0.40Hz,副交感神経機能の指標)に相当するピークは確認できなかった。 今後は上述のようなパワースペクトラムにみられた動物種差の原因について、記録条件を含む動物側の諸要因を吟味するとともに、心拍変動解析の手法の再検討を行い、ついで、心電図波形と自律神経機能の相関性についても研究する予定である。
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