研究概要 |
私達はホメオボックス遺伝子の一つengrailed(en)に注目し,ニワトリ中脳での発現と神経回路形成の関係を追究してきている。視蓋は視神経の投射を受ける視覚中枢であるが,的確な神経回路形成のためには視蓋の軸に沿って極性が存在していることが重要であると考えられる。enは発生初期に視蓋原基の尾側部で強く,吻側部で弱いという勾配をもって発現されている。昨年度の研究で,中脳胞を間脳に移植して形成された異所的視蓋ではenの発現パターンと網膜からの投射パターンが常に一致していたので,enが視蓋の吻尾軸の決定に重要な役割を果たしていることが示唆された。そこで,enは視蓋全体で強制発現させ,その後の視蓋の吻尾軸がどの様に変化するかを追究したいと思い,本年度はenの強制発現のシステムを確立した。ラウスサルコーマウイルスに由来する強制発現ベクターをHughes博士より譲り受け,それにen-2のcDNAを組み込んだ。このレトロウイルスは自己増殖可能なウイルスである。このウイルスを,ウイルス感受性胚の培養線維芽細胞で増殖させ,孵卵2〜2.5日のウイルス感受性胚の中脳付近の神経管中に注入し,感染させた。その後,En-2蛋白を認識するモノクローナル抗体4D9を用いて免疫染色を行い発現を検出した。このような方法で注入部付近の神経管の細胞に高頻度にenを発現させることができた。次に,ウイルス感受性胚に感染させ,その視蓋原基をウイルス抵抗性胚に移植したところ,移植した視蓋原基でのみenの強制発現がみられた。このように目的とする部域での限局した発現のシステムが確立されたので,現在このような視蓋への投射パターンの解析を行っている。
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