本研究の目的は血管内皮細胞の塩素(Cl)Cl電流の同定とその役割の検討であった。ヒト大動脈内皮細胞を培養し、ホールセルクランプ法により細胞全体の膜電流を記録し、fura-2蛍光法により、細胞内Ca([Ca]i)を測定した。ホールセルクランプ成立後、大きなCl電流が徐々に発生した。Clチャンネル阻害剤のNPA、SITS、DIDSは約1mMでこのCl電流を可逆的に消失させた。このClチャンネルは外向き整流性を示した。細胞変形時にはさらに大きな整流性のないCl電流も生じた。これらのCl電流は膜電位の-50mV以下への過分極で著しく減少した。 ATPを細胞外に適用すると5-10uMの濃度でCl電流を発生した。電流は外向き整流性を示し、NPAなどの阻害剤で抑制された。ATPγSとADPはATPと同程度に有効、アデノシンは無効でり、P2y受容体の阻害剤スラミンは阻害効果を示すので、ATPはP2y受容体を介してCl電流を発生する。ピペット内へのEGTAまたはBAPTAの適用によって、ATPによるCl電流誘発の頻度が減少し、また細胞外Ca濃度の減少や、niflumic acidによってCl電流は抑制された。従ってATPは[Ca]i上昇により、Clチャンネルを開孔したと考えられる。 カバーグラス上の一層の細胞群より、fura-2蛍光として[Ca]iを測定した。「Ca]iはATPで2相性に増加した。無Ca溶液、[Cl]oの減少、niflumic acidはそれぞれ遅い相を抑制した。遅い相は膜電位で駆動されるCa透過性チャネルからのCaの流入によると考えられる。Cl電流は膜電位を介して膜からのCa流入を増大すると考えられる。
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