内皮細胞において塩素(Cl)電流は肺動脈内皮だけでなく、大動脈内皮、臍帯静脈内皮でも発生することがホールセルクランプ法による実験で明らかになった。すなわち、Clチャネルの発生は血管内皮細胞では一般的とみなしうる。さらに本研究では培養ヒト大動脈血管内皮細胞を主たる標本とし、電流を発生させる機序と電流の機能的意味を検討した。内皮細胞は多くのアゴニストに反応して、細胞内Ca濃度を上昇させ、血管収縮の調節因子である1酸化窒素やプロスタサイクリンを放出させる。初年度の研究によって、アゴニストのひとつATPがCl電流を活性化することを発見し、さらに、細胞外のCl濃度の減少によってATP誘発性Ca濃度上昇の持続相が抑制されることが判明した。第2年度はATPがCl電流を発生する機序を解明し、これと関連して、細胞内CaによるCl電流の発生とCl電流の膜電位調節への関与を検討した。細胞内Ca濃度の増大によって、外向き整流性のCl電流が発生した。このCl電流の発生には細胞内におけるATPの存在が必要であった。またカルモジュリン拮抗剤のトリフルオペラジンおよびW7はこのCl電流を抑制したので、チャネルはカルモジュリンを介して活性化される。Cl電流はCa濃度が低い条件でも(pCa7.5)ピペット溶液の浸透圧の高い場合には発生した。従って、血管内皮細胞にも細胞の膨張により開孔するClチャネルがある。細胞接着型クランプで測定されるチャネル電流とリーク電流の変化から、アゴニストによる静止電位の変化を見積もると、静止電位はKの平衡電位より20-40mV脱分極していた。Cl電流は膜電位を-40mV付近の定常的な水準に安定化させるのが主たる機能と想定しうる。
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