研究概要 |
カルシニューリン(CaN)のラット脳における存在の多様性につき検討した。イムノブロット法にても,免疫組織染色法にても,脳の各部において決して均一な分布をしているわけではないことが示された。濃度分布は海馬≧線状体≧大脳皮質>小脳>>上部脳幹≧下部脳幹の順でホロエンザイムが分布していた。CaNを構成している2つのサブユニット(AおよびB)についてはほぼホロエンザイムと同様の傾向にあったが,Aに比べBの方が部位間の隔差が少なかった。即ち,Bの方がより均一な分布を示した。AとBの含量比を計算すると唯一大脳皮質において従来報告されている1:1の比を示したが,他の部位についてはBの方がAより多く,特に上,下脳幹においてはBがAの約2.5倍存在していた。DEAEクロマトグラフ法,ゲル濾過クロマトグラフ法等により,この過剰なBサブユニットの一部がフリーの形で存在している可能性が示され,実際にモノマーの形で精製に成功した。このBサブユニットはホロエンザイムを構成しているBサブユニットと分子量,抗原性,熱安定性,Ca^<2+>結合性等の点で同一であった。以上の成果につき,論文にまとめ,J.Biol.Chem.に投稿中である。膜結合性と細胞質型(可溶化型)CaNの解析についても,2,3の新知見が得られた。A,B両サブユニットで膜結合に必要なCa^<2+>イオン濃度に差があること,Aに比べてBの移動量が3〜4倍も多いこと,Bサブユニット分子上へのミリストイル酸付加によりCa^<2+>の効果を変化させる可能性のあること等である。機能解析の1つとしては,神経細胞の初代培養系にCaNマイクロインジェクションを行い,コントロール群とのCa^<2+>の動態に及ぼす変化を画像解析法,パッチクランプ法により検討している。また,CaNのBサブユニットのクローニングやアイソフォームの精巣における役割についても同時に検討している。
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