研究概要 |
カルシニューリン(CaN)の存在様式の多様性につき平成4年度に得られた結果をもとに解析を進めた。特にCaNのA,Bサブユニットの解離がCaNの含量の高い海馬においても存在することを示した。Aの反応性はCA1からCA3にいたる領域の神経細胞に特に高く認められたのに対し,Bのそれらは比較的均等に認められた。同時に免疫染色したリン酸化酵素(Cキナーゼ,CaMキナーゼ等)も海馬に多く局在しており,それらのリン酸化反応と拮抗する反応として重要と考えられた。 そこで我々は海馬を場に行われる神経機能の遂行においてCaNがどう関与するのかを解明すべく,正常ならびに各種病態におけるCaNの発現を追った。第一に,てんかん準備性獲得におけるCaNの関与についてである。キンドリングラットはてんかんのモデルとみなされるが,病期の進展とともにCaNが同側海馬において著明に増加することを明らかにした。一方反対側ではほとんど変化を示さなかった。免疫組織染色ではCaNが神経細胞の胞体よりもアクソンやデンドライトがシナプスを形成する場に多く,てんかん発症においてCaNが何らかの役割を果たしていることが示された。恐らくシナプス形成の段階で作用しているのではないか。 近年注目を浴びている免疫抑制剤のターゲットがCaNであるという報告に基づき,FK506をこのてんかんモデルラットに投与したところ,FK506はキンドリングによるてんかん準備性獲得に対し抑制的に働いた。そしてFK506の投与を中止したところ再びてんかん形成が認められたことから,この抑制作用が可逆的であることを示された。
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