これまでグルタミン酸受容体とそれに結びついたイオンチャネルにはNMDA型をはじめとするいくつかのタイプが知られているが、いずれもグルタミン酸によってコンダクタンスが上昇するタイプであり、コンダクタンスが低下するタイプはほとんど知られていない。そこで、本研究では以下の2つの課題を研究目的とした。 1.ON型双極細胞の応答発生に関与する細胞内情報伝達機構の解明:グルタミン酸でコンダクタンスが低下する応答はサイクリックGMPを細胞内メッセンジャーとする情報伝達機構によるものと思われ、Gタンパク、ホスホジエステラーゼを介する視細胞の光応答と類似の機構が存在するものと考えられた。そこで、ウシ網膜二次ニューロンに存在する百日咳毒素基質タンパクを検索し、そのADPリボシル化に対するグルタミン酸の作用を検討した。暗順応したウシ剥離網膜より蔗糖密度勾配遠沈法によって得た膜画分を百日咳毒素によりADPリボシル化を行うと、39〜40kDaに標識されたバンドが見られた。マグネシウムイオン存在下でグルタミン酸またはそのアナログのAPBを添加するとこのADPリボシル化が抑制された。 2.コンダクタンス増加型の応答のシナプス機構:一方、OFF型双極細胞のシナプスで動作しているコンダクタンス増加型のシナプス機構も、電気生理学的手法によって解析した。記録した双極細胞の内、約5%がグルタミン酸に対し内向き電流を示す。OFF型双極細胞であった。グルタミン酸に対する感受性は樹状突起で最も高く、Kdは約20muMであった。グルタミン酸応答の平均反転電位は-6.6-mVであった。NMDAやアスパラギン酸は無効であり、この応答はAM、PA/KA型のグルタミン酸受容体チャネルを介するものと考えられた。
|