ラット中隔核神経細胞の興奮性に対するグルコースの役割の解明

1992 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04454141
• 研究機関: 久留米大学
• 研究代表者: 赤須 崇 久留米大学, 医学部, 教授 (60113213)
• 研究分担者: 鶴〓 政志 久留米大学, 医学部, 助手 (60207454) ; 西村 俊彦 久留米大学, 医学部, 助手 (30172696)
• キーワード: 海馬・中隔核間の神経伝達 / 低グルコース負荷 / 過分極電位 / シナプス伝達の抑制 / ATP依存性 / パッチ・クランプ / 細胞内潅流法 / カルシウムスパイク

研究概要

脳細胞にとっては、グルコースの絶えざる供給が必要不可欠であり、低血糖が脳に及ぼす影響はしばしば重篤なものとなることが多い。初年度の研究では、大脳辺縁系に属する神経核である中隔核をスライス標本として作成し、細胞内電気記録法によって神経活動を記録した。細胞外液のグルコースを2mM以下に減少させると、膜抵抗の減少を伴う過分極電位が発生した。これは主にKイオンの透過性を上昇させることで発生しているが、従来から知られているKチャネル阻害剤によって抑制を受け難く、細胞外Caイオンの減少にも影響を受けないが、高濃度のTEA(20mM)で50%程度抑制された。この過分極電位は細胞内のエネルギー代謝に依存している。即ち、グルコースを非加水分解型のグルコースに置換したり、ヘキソキナーゼ阻害剤のマノヘプチュロースを投与することで過分極電位が発生した。恐らく細胞内ATPが減少することによってATP依存性Kチャネルが開き、過分極電位が発生するものと考えられる。しかしながら一方で、低グルコース負荷によって細胞内の総ATP量は短時間ではさほど減少しないとの報告もある。しかしミトコンドリアに於けるATP産生の阻害剤として知られるジニトロフェノールを与えると、同様な過分極電位が発生することから過分極電位は細胞膜での電気現象であり、恐らく局所的なATPの減少が効果的にKチャネルを調節していると考えられる。低グルコース負荷はシナプス前神経に作用し、過分極電位発生以前にグルタメートやGABA等の伝達物質放出を抑制し、海馬核からの神経伝達を阻害する。恐らく神経終末の過分極電位発生もしくはCa電流の抑制が生じていると思われる。現在、単離・培養した神経細胞にパッチクランプを応用し、電流記録を行うと同時に細胞内ATPを直接に変化させることを行っており、K^+チャネルの性質を明らかにできると考えている。

研究成果

• [文献書誌] Akasu. T.: "Cellular metabolism regulating H- and M-currents in bull-frog sympathetic ganglia." Can. J. Physiol. & Pharmacol.70. (1993)
• [文献書誌] 西村 俊彦: "化学的シナプス伝達." Clin. Neurosci.11. 265-268 (1993)
• [文献書誌] Akasu, T.: "Synaptic transmission and modulation in parasympathetic ganglia." Jpn. J. Physiol.42. 839-864 (1992)
• [文献書誌] Akasu, T.: "Forskolin enhances inward rectifier current in neurons of rat suprachiasmatic nucleus." Kurume Med. J.39. 213-217 (1992)
• [文献書誌] Shoji, S.: "Effect of glucose-depletion on excitatory synaptic transmission in the suprachiasmatic nucleus of the rat." Kurume Med. J.39. 209-212 (1992)
• [文献書誌] Nishimura, T.: "Guanosine 3',5'-cyclic monophosphate regulates calcium channels in neurones of rabbit vesical pelvic ganglia." J. Physiol.457. 559-574 (1992)
• [文献書誌] Shoji, S.: "Role of NMDA and non-NMDA receptors in excitatory postsynaptic potentials in rat suprachiasmatic nucleus neurons." Kurume Med. J.39. 129-132 (1992)
• [文献書誌] Hasuo, H.: "Adenosine inhibits the synaptic potentials in rat septal nucleus neurons mediated through pre-and postsynaptic A1-adenosine receptors." Neurosci. Res.13. 281-299 (1992)
• [文献書誌] Shoji, S.: "Presynaptic facilitation of excitatory postsynaptic potential by glucagon in neurons of rat ventromedial hypothalamic slices." Neurosci. Lett.138. 291-294 (1992)
• [文献書誌] 赤須 崇: "Mチャネルを制御するシグナル伝達系." 実験医学. 10. 119-125 (1992)
• [文献書誌] Tokimasa, T.: "Autonomic Ganglia" Harwood Academic Publishers Ed. E. M. McLachlan, (1993)
• [文献書誌] 赤須 崇: "神経の情報伝達 第7巻" 廣川書店 佐藤公道編, (1993)