視束前野・前視床下部(POAH)は体温の恒常性維持に不可欠な自律性及び行動性反応間の協調に中心的な役割を果たしており、この統御機能について温度ニューロンを中心に行われた神経生理学的研究から多くの知見が得られてきた.POAHを温度刺激すると適切な調節反応が起こることから、体温調節に関係した温度ニューロンがPOAHに存在することは間違いないが、体温調節系の神経回路網が不明で、今のところ温度感受性という必要条件のみがニューロンを同定する方法なので、ニューロンの反応性に関する知見とマクロな調節反応の解析結果を直接には結び付けられない.もしある特定の体温調節効果器反応に関係したニューロンが次にどこへ信号を送っているのかが明らかになれば、温度感受性以外にもニューロンを同定することが可能になり、POAHの統御機能の解析も飛躍的に進むものと期待される.本年度は体温調節系の神経回路網理解の第一歩としてPOAHの温度刺激で誘発出来るラットのふるえ皮膚血管運動に関係した神経機構で、左右のPOAH間には情報の交換があるかについて検討を加えた.ケタミン麻酔下のラットで皮膚温測定用の熱電対を左右後肢足底に装着した.ふるえの解析では大腿四頭筋に筋電図測定用の針電極を刺入した.熱電対と一体になった微小熱極をPOAH内に挿入した.POAHの尾側で一側の視床下部全体を前額断面でナイフで切断した.室温28℃で、切断側の熱極に高周波電流を通電して脳温をランプ状に上昇させると皮膚血管拡張が両側性に観察された.皮膚血管運動の情報は左右のPOAH間を連絡しているようである.一方、室温5℃にラットを暴露し定常的なふるえが観察された状態で切断側の局所脳温を上昇させてもふるえの抑制は見られなかった.ふるえに関しては左右のPOAH間に情報のやり取りは無いようである.
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