本年度はモルモット大動脈からの一次培養細胞が安定して作製できるようになったので、細胞内Caイオン濃度測定および組織における張力測定実験にはこの組織を用いて行なうこととした。培養内皮細胞の作製については、ウシ胸部大動脈から採取した内皮細胞をビーズ上に増殖させた標本は安定して供給出来るようになったが、その生理活性物質産生能には変動があり、まだ改良すべき点があるように思われる。 1.培養内皮細胞のEDHF産生能の検討:モルモット胸部大動脈を用いて以下の実験を行なった。 1)大動脈輪状標本の張力測定:ブラジキニン(BK)で収縮させた筋にP物質を投与すると内皮依存性に弛緩したが、その振幅はニトロアルギニンでEDRFの産生を抑制しても僅かしか減少しなかったので、この血管平滑筋はEDHFによって弛緩すると推定した。2)培養内皮細胞のBK刺激で潅流液中に遊離される物質もまた弛緩作用を有し、その弛緩作用はニトロアルギニンやインドメタシンで抑制されなかったので、EDRFやプロスタサイクリン以外の弛緩物質の関与が考えられた。 2.EDHFによる細胞内Caイオン濃度の変化:Fura-2を摂取させた大動脈1次培養細胞にBK刺激によって培養内皮細胞から遊離される物質を作用させると蛍光が減弱し、細胞内Caイオン濃度の減弱が推定された。このCa濃度減弱はEDRFやプロスタサイクリンの産生を抑制した内皮細胞からも遊離され、Kイオン濃度が高い溶液中では効果が低下し、また類似の作用はKチャネル開口薬でも誘発されたので、細胞膜の過分極がその原因ではないかと推定した。すなわちEDHFは細胞内Caイオン濃度を低下させ、筋を弛緩させると思われる。
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