研究概要 |
向精神薬のうち抗不安薬を検定する行動薬理学的手法はいくつか実用化されているが、すべての抗不安薬の検定に不十分な点もあり、われわれは新しい精神疾患モデル動物の作製を初年度に手がけた。自然発症高血圧ラット(SHR)と対照群のWistar Kyotoラット(WKY)を85dBの音刺激を備えた未知環境下に暴露した直後、Varimexで15分毎に運動量を測定した。いずれの時間でもSHRがWKYよりも統計学的に有意な高い運動量の増加を示し、ことに測定開始30分間は運動量の亢進が認められた。その後、両群の運動量は経時的に減少し、2時間後には両群ともほぼ同程度の運動量を示した。この結果は、SHR,WKYいずれも時間経過に伴い環境に順応化するが85dBの音刺激を備えた未知環境下に動物を暴露すると、一種の恐怖あるいはストレスによる運動量の亢進が観察されることは先の我々の報告からも明かである(Neurosci Res,12;346-355,1991)。この運動量の亢進はことにSHRで顕著に出現するが血圧とは無関係であることから、SHRは、高血圧症のみならずある種の精神疾患モデル動物としても用いられる可能性が示唆された。そこで、SHRを未知環境下に暴露後30分間の運動量を基準とし、Ca拮抗薬の投与により変動する運動量の測定値から、その抗不安効果の有無を検索した。使用薬物は、抗不安薬として臨床的に認められるベンゾジアゼピン系のdiazepamおよび、5-HT_<1A>系のSM3997(tandospirone)を用い、Ca拮抗薬はnitrendipine,nicardipine,nifedipine,flunarizineおよびdiltiazemを使用した。薬物投与群のうち抗不安薬であるdiazepamとtandospirone投与群では約40%の運動量の減少が認められた。すなわち、異なった2種の抗不安薬の連続投与により不安状態から惹起される運動量の亢進は抑制された。Ca拮抗薬投与群では、nitrendipine,nicardipineおよびnifedipineの1,4-DHP系Ca拮抗薬およびflunarizineの連続投与が抗不安薬と同程度に運動量の亢進を著明に抑制した(p<0.01)。しかし、diltiazemは有意な変化を起こさなかった
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