X線結晶解析結果にもとづいて、活性中心のアミノ酸残基に変異を導入し、変異酵素と野生型酵素の比較から、活性中心残基の役割を明らかにすることが本研究の目的である。 前年度より引き続いて行ってきた大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)のAsp222についての研究を完成し、新たにAsn194の変異酵素の研究を開始した。Asp222は補酵素ピリドキサル燐酸(PLP)のピリジン環Nと水素結合しているので、補酵素の電子分布に影響を与えていることが予想される。これをGluに置換した場合、活性が10〜20%に低下するのみで、他の諸性質は野生型酵素と類似していた。しかし、Asn、Alaへの置換によってPLPの結合定数は三桁低下し、PLP型酵素アミノ酸間の反応効率も3〜4桁低下した。逆反応のPMP型酵素-2オキソ酸間の反応効率の低下はそれほど大きくなかった。吸収スペクトルの解析から、PLPとアポ蛋白質の間で形成される「内アルジミン」のpKが大きく上昇しており、PLPの「電子溜め」効果が発揮できなくなっていることがわかった。以上の結果より、222位には負電荷が必要で、PLPをつなぎとめるとともに、ピリジンNの正電荷を安定化してPLPの「電子溜め」効果を強めていることが明らかになった。 Asn194はすべてのAspATに保存された残基であるがその役割についてほとんど注目されていない。Ala194酵素を調べた結果、Asn194は基質の結合部位であるArg386を正当な位置に固定するとともに、PLPの3'(0)との水素結合を通じて電子分布を調節して触媒に関係していることを明らかにしつつある。 大腸菌芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素については、基質認識機構の解明を目指してArg292の変異酵素を解析中である。
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