アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)と芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(AroAT)(ともに大腸菌酵素)の比較研究を進めた。両酵素は一次構造上40%の類似性があり、活性中心残基の空間配置には共通のものが多い。 先ず、AroATを大腸菌体内で大量に生産する系を遺伝子組み換えで確立し、精製酵素の性質を調べた。両酵素は基質特異性が重なり合っており、酸性アミノ酸に対しては同程度であるが、芳香族アミノ酸に対してはAroATが三桁高い活性を示す。反応動力学的解析によって両酵素とも同じ機構で反応が進行することを明らかにした。基質アナログの反応性の比較により、AroATの芳香環の認識部位はすでに知られている酸性基質のomega-カルボキシル基認識部位(Arg292)の近く、あるいはそれと重なり合っていることを示唆することができた。両酵素ともArg292とArg386(基質のalpha-カルボキシル基結合部位)が、補酵素ピリドキサル燐酸(PLP)とLys258の間に形成される内アルジミンのNのpKを下げており、基質アミノ酸の結合によってそのpKが上がることが、反応の進行に必要なアルジミン転移を容易に進めると予想されている。基質アナログと部位特異的変異を用いて系統的に解析し、AspATではArg292は部分的にそれに関係しているが、Arg386はより大きな影響を与えており、Asn194がArg386ならびにPLPの間で水素結合をつくっていることがその原因であることを明らかにした。AroATではArg292にはそのような効果はなく、Arg386-Asn194-PLPの間の水素結合網のみが働いていることを明らかにした。保存残基であるAsn194はPLPあるいはPLP-基質複合体に於ける電子の分布状態を、効率的な触媒作用の進行に都合のよいように調節する役割と、Arg386を正しい位置に保つことによって基質の結合にも重要であることを明らかにした。 以上、本年度得られた結果は、アミノ酸基質の認識について、alpha-カルボキシル基の結合と続いて生じるtransaldimination を効率的に進行させることについてアミノ基転移酵素に共通の初期の反応機構を説明するものである。
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