研究概要 |
酵素がその効率的かつ特異的な触媒能と極めて優れた基質選択性を発揮するために,酵素タンパク質にどのような分子設計が必要とされているかという基本的テーマを,大腸菌の三種のアミノ酸アミノ基転移酵素(アスパラギン酸アミノ基転移酵素AspAT.芳香族アミノ基転移酵素AroAT,分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素BCAT)を対象として研究してきた。 今年は,3年間の最終年度であり、過去2年間で得られた結果の確認、証明とそのとりまとめを主として行った。1.AspATにおいてArg386(基質アミノ酸のα-カルボキシル基の結合残基)-Asn194-補酵素ピリドキサル燐酸につらなる水素結合ネットワークが,反応の初期段階で基質アミノ酸を触媒活性を行える状態へ効果的に位置ずけるのに重要な役割をしていることを証明することができた。AroATにおいても同様な機構が働いていることを明らかにし,すべてのアミノ基転移酵素の共通の分子設計である可能性を確認することができた。2.側鎖結合部位について,AspATの基質アスパラギン酸の側鎖カルボキシル基認識残基がArg292であることが明確になっているが,AroATでは芳香環認識部位がArg292位の近くではあるがそれとは別の部位であり,AspATの側鎖認識部位よりは疎水性がより高い領域であることを明らかにした。3.X線結晶解析はAspATでは開構造(基質が結合していない状態)と閉構造(基質が結合した状態)で1.8Åの分解能で回折を終えた。また、ピリドキサミン型の結晶解析も行い、マレイン酸結合では閉構造、グルタル酸結合では予想に反して開構造へ大きく片寄っていることを明らかにした。BCATは解析可能な結晶が得られ,現在重原子置換を試みている。AroATでは難行していた結晶化が解決しつつあり,結晶の質を上げるべく努力する段階になった。
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